転職サイトの利用者が事実無根の投稿をしたということで、プロバイダー責任法に基づき、投稿者の名前や住所などの開示を求めた訴訟の判決が22日に行われました。
参考:転職サイトに事実無根投稿、投稿者名開示を命令 : 社会 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)
裁判官によると「名誉が毀損(きそん)されたことは明らかだ」として開示を命じたそうです。
開示の理由について記事によると
昨年10月、「転職会議」の口コミ欄に、原告企業の従業員を名乗る人物が匿名で「社長はワンマン」「管理職に管理能力はない」などと投稿。企業側は訴訟に先立ち、東京のサイト運営会社に投稿者のIPアドレス(インターネット上の住所)などの開示を求める仮処分を東京地裁に申し立て、開示の仮処分決定が出たことから、投稿はSTNetのサービスを経由してなされた事実を把握。今回、投稿者名などの開示を求めていた。
とのこと。開示要求されたのはあくまでプロバイダーであるSTNetであり、悪意のある投稿文を投稿された「転職会議」を運営する株式会社リブセンスではありません。
この辺は転職会議の仕組みにより、マイナス評価でも掲載するからなのか、詳細な個人情報まで取得しないからなのか分かりませんが、サイト運営者が被告でないのは意外でした。
※価格.comや食べログの例を見ると、サイト運営者が被告になるケースが多いです。
ただ、記事の文末には以下のような記述もあります。
「転職会議」の投稿を巡っては、削除などを求める会社などとの間で訴訟に発展するケースが各地で相次いでいる。
とのこと。企業は名指しで批判されるわりには、投稿者は匿名で投稿できるため、こういったトラブルが相次ぐのでしょう。
そもそもクチコミは良い評価ばかり掲載することはできません。悪い評価を掲載しないと評価は偏るし、客観性が無くなり、情報に信頼性が置けなくなります。
ですので、サイト運営社は悪い評価でも基本的には掲載するというスタンスを取っているところが多いのですが、問題は「投稿者に信用が置けるのか?」という点にあります。
例えば投稿者が本人確認をして、責任を持ってクチコミを投稿しているなら別ですが、匿名の場合は著しく信憑性に欠けます。にも関わらず、悪い評価を投稿できるわけですから、悪意のあるユーザーを避けられません。
表現の自由という言葉がある通り、個人は自由に自分の考えを発表して良いと法律で決まってはいますが、クチコミサイトのように「誰が」投稿したか分からない状態では、しばしばこのようなトラブルが発生します。
悪意のある投稿はクチコミサイトの問題だけではない
今回のケースは転職会議という企業の評価をクチコミできるサイトで起こったトラブルですが、なにもクチコミサイトだけの問題ではありません。一般的な求人サイトでもあり得る話なのです。
例えば、「求人応募」で虚偽の情報を伝えるケースが考えられます。名前も住所もデタラメ、もしくは他人に成りすまして応募します。情報を受け取った企業は迷惑を被りますから、威力業務妨害にあたるでしょう。
あるいは「メッセージ」機能を使ってやり取りをする時に、企業の担当者に罵詈雑言を浴びせるというケースも考えられます。目的は私怨で、そのメッセージ内容をSNSなどで公開されるかもしれません。
筆者がこれまで構築した求人サイトではこのようなケースはありませんでしたが、サイトの規模が大きくなれば大きくなるほどこういった悪意を持った利用者・投稿者を避けられなくなります。
ですので、求人サイトの運営者は対岸の火事とは思わずに、注意して運営していただければと思います。
悪意のある利用者を避けるには?
それでは求人サイトの運営者が悪意のある利用者を避けるために何をすれば良いのでしょうか?一番に考えられるのは「サポート窓口を用意する」ということです。
窓口と言っても24時間365日対応するようなものではなく、お問い合わせフォームや電話受付でかまいません。利用者同士でトラブルがあった時に運営者に連絡できる手段を用意するのです。
そうすることでトラブルを早期発見することが出来ますし、求人応募やメッセージ機能のやりとりであれば、管理画面から投稿内容を確認することができます。
そして適切な対応(投稿の削除や非公開など)をすることができれば、トラブルを最小限に抑えることができますし、対応の早さが求人サイトの評価となり、信頼性へとつながるでしょう。
当たり前のように感じられる対応かもしれませんが、意外と出来ていないサイトが多いです。お問い合わせをしても数日放置され、返ってきた答えがよくある文言(テンプレート対応)だったというのは筆者も経験があります。
ですので、利用者が運営者に連絡できる手段を作って、できるだけ早く対応するようにしましょう。そうすることでサイト自身の信頼性は向上し、利用促進にも繋がります。
他、定期的に投稿データを検索して誹謗中傷表現など悪意のある文言を見つけたり、悪意のあるユーザーをアクセス制限して、登録できないようにする方法もあります。
こちらについては技術的な対策になりますので、当方のような専門家にご相談いただければと思います。
まとめ
求人サイトに限らず、様々な形態のサイトで運営者が何らかの責任を問われるケースが増えてきたように感じます。
以前なら「利用者同士の問題でしょ」で済ましていたことでも、それを放置することで運営者が管理責任を問われて非難されたり、訴えられるケースが増えてきました。
Webサービスに詳しくない方は「良いサイトやサービスを作ったら利用者が増えて利益になる」とお考えの方も多いですが、利用者が増えることで考えなくてはいけないことも増えます。
いくらインターネットを使うとはいえ、結局のところ”人対人”で成り立つサービスです。画面の向こう側には生身の人間が存在します。良い人もいれば悪意を持って利用する人もいます。
「こんなの当たり前だ」とか「こんなことはされないだろう」という固定概念を捨て、人が利用していると言うことを認識した上で、適切なサイト運営をしていただければと思います。
問題が起きる前にどうするかだけでなく、起きた後にどうするかでそのサイトや運営者の資質が問われます。特に求人サイトのように多くのユーザーが利用する媒体では、トラブルが起きないほうが稀です。
例えトラブルが起きたとしても、運営者が迅速に対応し、真剣に取り組むことで、被害を最小限に抑えることができます。慣れない内は難しいことかもしれませんが、サイト運営をしながら学んでいただければと思います。