少し話題にするのが遅くなりましたが、9月22日の日経新聞に大変興味深い記事がありました。
なんと転職を決めたIT人材の5割超が異業種に移ったというのです。筆者はWeb専門であるもののIT業界に位置しますので、5割が異業種に転職しているというのは大変驚きました。
ただ驚きはしたものの、こういう結果になるのも理にはかなっているんですよね。というのもITを活用する企業は年々増えており、国内のIT市場も拡大し続けているからです。
少子高齢化の影響で成長率は鈍化していくものの、IT市場は成長し続けるという見立てです。これは技術の進歩とともにITを活用する場が増えますから、当然の流れだと思います。
一方で、ITエンジニアや技術者は不足しています。IT業界は「激務でブラック企業が多い」イメージを持たれることが多く、若い方には敬遠されがちです。そのため成り手が減っているという現状があります。
ITに関する需要は増えているのに技術者はいない。だから転職で優遇されます。現在IT業界で働く人達も今以上の条件を提示されるなら、異業種に転職したくなるのは当然といえるかもしれません。
IT転職をする場合、ほとんどの方が転職サイト(求人サイト)を利用すると思うのですが、異業種を対象とした転職サイトはありません。
「Green」とか「Find Job!」といった、IT/Web業界向けのサイトはありますが、これらを利用するのはIT/Web業界の人達がほとんどです。異業種の方がIT人材を採用するために利用することはあまりないでしょう。
IT技術者が異業種に行きたい場合、「リクナビNEXT」や「エン転職」といった総合型の転職サイトを利用すると思いますが、これらはITに特化しているわけではないので、自身のスキルや能力をアピールしづらいです。
このように現状の転職サイトでは異業種間の人材マッチングが行いづらい環境にあります。そこで「IT人材向けの異業種転職サイト」があれば人気が出るのではないでしょうか?
企業はIT人材がほしい、IT技術者は自分を必要としてくれる新天地を求めたい。そのようなニーズにマッチする転職サイトがあれば利用してもらえるように思います。
今回は求人サイトより更に絞って、IT人材向けの異業種転職サイトの作り方や可能性について考えていきたいと思います。
IT人材向けの異業種転職サイトに必要なことは?
採用企業としては「何ができるのか?」「自社の事業でどう活躍できるのか?」ということを重視されていると思います。単にパソコンが使えてIT機器に詳しいだけでは難しいです。
かといって企業の担当者はITの専門家ではありません。日経の記事にあるようにトヨタのような大企業ならIT部門もあるでしょうから、どんな人材を雇用すればいいか判断できます。
しかし、これからIT人材を採用しようとしている企業では技術的なことについての判断ができません。たとえ求職者のスキルシートを閲覧できたとしても、技術的な判断は技術者ではない限り難しいのです。
結局、履歴書に書かれた職務経歴や経験年数で判断するしかなく、本当に企業が求めるIT人材を雇用するのは困難であるのが現状ではないでしょうか?
そこで重要となるのが転職サイト側からのアプローチになります。転職サイトが求職者(転職希望者)の能力や技術をわかりやすく提示することができれば、IT技術に疎い企業でも採用しやすくなります。
逆に企業がどんな人材を求めているかを明確にすることで、IT人材との間で適切なマッチングが行えるようになり、お互いが希望する条件で雇用関係を結ぶことができるようになります。
このようなマッチングの手助けを転職サイトがすることで、転職サイト側にもメリットがあります。企業も採用活動にかかる費用を捻出してくれるようになり、通常より多くの利益をあげられるようになります。
IT人材が異業種に転職する場合、当事者間で任せるよりも転職サイトが間に入ることで、マッチングの精度は上がり、三者三様にとって良い結果になるといえるかもしれません。
IT人材向けの異業種転職サイトに必要なコンテンツは?
それではどうやってIT技術に詳しくない異業種の企業にアプローチすればいいのでしょうか?それにはやはり「目で見て触ってわかる」ことが重要だと思います。
求人情報でIT人材が取得しているプログラム言語や使用できるソフトウェアを表示したところで、それが何に使えて何を示すか分からなければ能力を判断できません。
しかし、「それで何を作ったのか?」を見ることができればわかりやすいです。たとえば「こんなサイトを作りました」としてポートフォリオ(作品集)を公開したらどうでしょうか?
IT技術に詳しくない人でも実際に閲覧して操作することができるのでわかりやすいです。ソフトウェアやスマホアプリなら実際に自身の端末にインストールして試してもらうこともできるでしょう。
仕事で開発したものは守秘義務の関係上、自身の作品として公開しづらい事情はあります。しかし、ITエンジニアやWebクリエイターは勉強の一環で作品を作っていることが多いので、それを公開すれば問題ありません。
ネットワーク系のエンジニアであっても、自身で構築したネットワークの設計図を公開したり、テスト用のサーバを用意して確認してもらうこともできるでしょう。
転職サイトで何かしら作品を公開しておくことで、企業の担当者が応募内容を精査したり、スカウトする時の参考になります。実際に試さないとわからない部分もあるので、制作物を確認するのが一番です。
「それでも技術のことは素人にはわからないよ」と思われるかもしれません。その場合は転職サイト側でサポートすることができます。人材派遣や転職エージェントのように人材の斡旋を行うのではありません。
転職サイト側で求職者が登録した作品や成果物について評価をつけるのです。 あるいはAIのようツールを使って自動的に判定しても良いかもしれません。Webの場合は特に数値化・グラフ化しやすいように思います。
数値化するのが難しい場合は、レビューのような形で転職サイトからのコメントが閲覧できても良いと思います。これならITに詳しくない企業の担当者でも参考になるのではないでしょうか?
IT人材が転職時に求めるのは「自分を正当に評価して欲しい」ということです。転職サイトでIT人材のスキルを正しく伝える手段を用意することで、マッチングが成功しやすくなるのではないでしょうか。
IT人材が異業種に期待することは?
IT人材が転職時に最も重視することは「給与・報酬」であるという調査がありました。
参考:IT人材が転職で重視すること、経産省調査で分かった上位11項目
しかし、IT業界の給与・報酬は他国に比べて少ないです。日本国内の他業種と比べても低い方ではないでしょうか。以下の参考ページをご覧ください。
参考:IT業界の現状・動向・ランキングを研究-業界動向サーチ
平均年収は593万円とあり、123業界中71位と半分以下です。(2017年9月25日時点)平均年収は大手を中心に調査していますので、実態はもっと低いのではないでしょうか。
だからIT人材が転職時に給与・報酬を最も重視するのは分かるし、至極当然の結果でもあります。ただ、IT人材が給与を重視するからといって、異業種の経営者がIT業界の平均より給与を上げて募集することはできません。
これに関しても「ITに詳しくない人が多いから」というのが理由として考えられます。経営者でも消費者でも人は自分の知らない物にお金を出すことはできません。
特に日本はIT後進国と呼ばれるぐらいITの普及や活用が遅れている国です。IT製品や技術を積極的に導入したり、IT技術者に高給を出すという考えがありません。
以前、中国の通信機大手であるファーウェイが日本での初任給に40万円以上出しているということが話題になりました。
参考:Huawei、日本での40万円超初任給が話題 日本企業と比較する声も - ライブドアニュース
日本企業の大卒初任給と比べて2倍以上の格差があり、それだけ中国の企業がIT人材を重要視している証拠でもあります。残念ながら日本企業では考えられず、改めてIT後進国である実情が浮き彫りになりました。
このような例があるように、いくら異業種を対象とした転職であっても、IT人材が最も求める「給与・報酬」を期待するのは難しいかもしれません。
ただ、IT人材は給与だけ求めているわけではありません。上記の経産省の調査を見ると、給与と同じぐらい「仕事のやりがい・面白さ」を重視しているのがわかります。
筆者もそうですが、IT業界に勤める人間は「仕事にやりがいを感じているから」頑張っていることが多いです。自分が作ったものや携わったものが世に出て人々に利用されるということに、やりがいを感じない人はいません。
極端な言い方をすれば、IT業界にブラック企業が多くてもそこで働く人がいるのはやりがいを感じるからです。これはアニメ業界など制作・技術に関する業界全体で当てはまることかもしれません。
ですので、給与と同じぐらいやりがいや仕事の面白さを重視しています。ITを通してそれを実感することができるなら、IT業界でなくても良いという方は多いのではないでしょうか。
まとめ
冒頭でご紹介した「IT転職、5割超が異業種に」という記事を見るまでは、正直なところIT人材が異業種の方たちに重用されているとは思いもしませんでした。
筆者が接するお客さまでもITに詳しくないという方が多く、親や友人・知人も同様です。町中や電車内でみんなスマホをいじってはいるものの、それがどんな技術でできて、どんな人が作っているのかは興味が無いと思っていました。
このまま日本は他国が作ったツールを使うだけのプレイヤーにすぎないと思っていたのですが、そうなるとは限らないと知って、未来が明るくなった気分です。
日本の終身雇用制度は半ば崩壊寸前だといわれており、ひとりの人間がずっと同じ会社で終えるのは難しくなりました。また、自分を成長させるために転職活動を積極的に行う方も増えています。
IT人材だけでなく、他の業界の方でも異業種に転職できると思います。たとえば外資系に勤める方が観光業界に行って英語を活用したり、営業をしていた方が農業をして販売することもできると思います。
異業種でもその人がこれまで培ったスキルや経験を活かせる業界はさまざまあります。それを正しくマッチングして新しい可能性を引き出すお手伝いをするのも、求人サイトに求められる要素ではないでしょうか。
筆者の知るところでは求職者が違う業界に行くことを目的とした求人サイトは見当たりません。求職者の方も基本的には自分がこれまで働いたことがある業界で仕事を探していると思います。
ですが、最初から異業種に転職することを目的とした求人サイトがあることで、これまでとは違った働き方を提案することができます。求人サイトの新たなジャンルとして、「異業種に転職することに特化した求人サイト」というのも面白いかもしれません。